知多乗合に登場したFCHV−BUS
その3.真打ち登場!〜待望のセントレア乗り入れ

3月の知多半田〜常滑駅間の「お披露目走行」から4か月のブランクを経て、
中部国際空港島内の水素供給設備「JHFCセントレア水素ステーション」が竣工、
空港周辺でのFCHV−BUS運行が再開されました。
今回は知多乗合の1台にくわえ、新たに中部国際空港内のハンドリング会社、
中部スカイサポートにも2台が貸与され、 こちらは主に空港ターミナルビルと
航空機の間を連絡するランプバスとしての任務が与えられました。

7月18日にトヨタ&日野から報道発表がなされ、3月の時点では常滑駅止まりだったFCHV−BUSは 今度は本来の計画だった常滑駅から先:中部国際空港への乗り入れが実現する。投入するダイヤも見直され、 これまでは通常の知多半田駅〜中部国際空港行きの続行便だったのが、
知多半田駅〜常滑駅〜中部国際空港の出入り往復+空港島内貨物地区循環系統というパターンに改まり、 循環系統の合間に水素ガスを充填する運用になった。

(中部国際空港)
http://www.cjiac.co.jp/kouhou/contents/2006/060718bus.html
(トヨタ自動車)
http://www.toyota.co.jp/jp/news/06/Jul/nt06_031.html
(日野自動車)
http://www.hino.co.jp/j/corporate/newsrelease/pressrelease/detail.php?id=108
(中日新聞)平成18年7月20日号
http://www.chunichi.co.jp/00/ach/20060720/lcl_____ach_____003.shtml
(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/press/20060718002/20060718002.html
(東邦ガス)
http://www.tohogas.co.jp/press/537.html
(新日本製鉄)
http://www0.nsc.co.jp/data/20060621094518.pdf※要アクロバットリーダー
(大陽日酸)
http://www.tn-sanso.co.jp/jp/pdf/20060621release.pdf※要アクロバットリーダー

これには中部国際空港島内のにJHFCセントレア水素ステーション開設が7月21日に遅れたことが影響しており、 当初は6月頃に運行を再開する予定だったともいわれていたため、むしろ水素ステーション開設まで 足止めを喰らっていたという言い方が妥当かもしれない。

臨時ながらで「プラス6時間の余裕」

7月21日の深夜、ムーンライトながらで東京を発つ。週末前ということもあって、 JR東日本田町車両センター(旧「田町電車区」)の183系や189系で運行される 「ムーンライトながら91号」が運行されていたので、今回はこちらを選んでみた。
今回乗った189系は国鉄時代に製造された車両で、房総方面を走っていた183系をベースに 信越線の碓氷峠を通過できるように改良され、現在は新幹線化された特急「あさま」を中心に東京から長野方面への特急に 使われていた。但し183系は国鉄時代に伊豆方面の特急「踊り子」で走ったこともあった。
※JR西日本の183系は485系からの改造車なので純粋な183系ではない

183系・189系を使うムーンライトながら91号(右:浜松)
国鉄時代の車両で運行されるということは、シートピッチが通常のながらに使われている373系の97cmから91cmに狭まる、 乗車位置によっては簡易リクライニングシートという一昔前の座席に耐えなければならないリスクがある。 しかし鉄道ファンの見地からすれば、懐かしい国鉄型車両で天下の東海道を下ることができるということでもあり、 何より助かるのは全区間指定席なので、一般客に眠りを妨げられずに済むメリットがある。 (通常のながらでは下りは豊橋から西、上りは熱海から東で朝一番の列車を兼ねるため一部自由席になり、 地元の通勤客が乗ってくるため眠れないことがある)



あおなみ線にやっと乗って来れた・・・
ムーンライトながら91号の名古屋着は5時19分、終点の大垣まで乗り通しても5時55分とかなり早いので、 本題の「知多半田に正午着」には6時間以上も余裕がある。そこで名駅(名古屋駅)まで引き返して、 昨年の万博行きではなぜか乗る機会を逸していた名古屋臨海高速鉄道あおなみ線を試乗、 野跡(のせき)から市バスで金山へ出て名鉄で知多半島へ向かう。しかしこれでも金山着はまだ8時台・・・

今回は通年発売される名鉄全線2日間乗り放題の「2Daysフリーきっぷ」(3800円)を使う。 10年以上前に初めて名古屋へ遠征した際に使ったことがあるので覚えていたが、常滑線では名鉄・名古屋市交通局などの SFカード「トランパス」が使えたのに、太田川で常滑線から分岐する河和線や知多新線はトランパス未対応だった (今回行ってわかったが内海にはまだ自動改札もなかった!)反省と、 名鉄・近鉄・南海3社共通の季節商品「3・3・SUNフリーきっぷ」が今夏限りで廃止され、 3社の系列バス会社でも使えるワイド版は一足早く今春限りでなくなっていたため、その対策でもある。

念願のセントレア乗り入れ

常滑線〜河和線の各駅停車・知多半田行きで眠りを補いながら知多半島を南下、更に知多新線の内海まで往復して 11時35分に知多半田到着。富貴で河和からの犬山線直通急行に乗り換えたら「元祖パノラマカー」7000系の トップナンバー(7001)編成に乗れた。
3月当時は知多半田駅前からバスターミナルが見えなかったが、現在は柵が取り払われた。 また駅前の再開発ビル「クラシティ半田」も開業しており、休憩場所にはちょうど良さそうだが、 プレハブの待合所が残っているのに簡易便所がなくなっていたのが残念。
乗る前に駅舎の下にある名鉄知多バス旅行で知多乗合の回数券(売価2000円、2200円分)を購入しておく。 知多半田からセントレアまで750円もかかるので1往復すれば1冊の多くを使ってしまうが、小銭を持ち歩くよりは 精算が楽になる。可能なら名鉄や名古屋市交通局との共通SFカード「トランパス」が使えるようにするか、 一日乗車券を設定してほしいが、贅沢は言えない。


今回は報道関係者がいなかったが、僕の他にも初乗り組が少しずつ現れ、11時55分頃にFCHV−BUSが 知多半田駅の仮設ロータリーに登場。
外装は3月の時点と大差ないが、前ドアの上と前バンパーにcentrair (セントレア)のロゴが、前ドアの上に中部国際空港のイメージキャラクター 「セントレアフレンズ」の一人 「なぞの旅人フーが加わっている。 しかし知多乗合車のシンボル:かもめの追加は見送られ、車内は最後列の座席が減っているのを除けば全然変わっていなかったので 「いったい4か月もの間FCHV−BUSを放ったらかして何をやっていたんだ知多乗合とトヨタは!?」 と唸りたくなった。その点も都バスS−L111号車に対して相変わらず物足りなさを感じる。

初乗り組のバスファンの他に業界関係者と思われる方が何人か乗ってきて、12時04分に知多半田駅を出発。 同じ時間帯なのに普段と異なるバスに一般客はとまどいを隠しきれない様子。 一般客が他のバスファンに質問するシーンも見られた。それに気づいてか、運転士が停留所の長い区間で 車内放送で車両の紹介をしてくれたのは嬉しい限りだ。

常滑駅から先は営業運行では初めて通るルート。3月2日のお披露目式ではVIPや報道関係者が FCHV−BUSでこの区間を通ったが、全然下見していなかったため何がどうなっているのかさっぱりわからなかった。
常滑駅を出るとすぐに右折して常滑市役所の前を通過。競艇場にも近いのでここに停留所を設けてもよさそうだが、 何で設置されないのか謎。その先に広がる臨空地区の開発が進めば停留所が追加されるのだろうか。 しばらく行くと中部国際空港連絡道路「セントレアライン」にぶつかり、左折したその先はなんとりんくうICの料金所。 運転席に回数通行券がストックされていたが、どうやらここのために必要だったのだろう。 セントレアラインはETCが使えるが、営業用車両の割引制度がないためか装着が見送られており、 一刻も早い割引制度の新設が望まれる。短区間とはいえ装備しておいて損はないはずだ。
料金所を出発すると登りの緩い右カーブをフル加速、セントレア大橋にさしかかると名鉄空港線と並行して空港島に入る。 左カーブにさしかかると名鉄は高架のまま曲がるが、セントレアラインは下り坂になりセントレア東ICを通過。 そのまま本線を直進して駐車場とホテルの間を進み、視界が開けたところで大きく右に曲がると中部国際空港のターミナルビルに到着。 乗客を降ろした後はターミナルビルの裏手に入り、管理棟横の駐車場にある貨物地区循環専用のバス乗り場に回送される。

貨物地区循環に入る前に運転士にお願いして車内を見せてもらう。 3月時点とはそんなに大差ないが、新たな機器が追加されたのか最後部の座席が1人分減っていた。 3月の初運行の時点ではオドメータ(積算距離計)は1万8900km台だったが、 今回の時点では2万1100km台を指しており、3月の運行終了後も非公式で走り込んでいたようだ。

国内初登場の燃料電池「ランプバス」

今回の新たなポイントは中部国際空港のハンドリング会社、中部スカイサポートにもFCHV−BUSが2台が貸し出され、 空港ターミナルビルから離れた場所に着けている航空機へ旅客を送迎する「ランプバス」としての任務が与えられたこと。 水素ステーションを持つ空港はドイツ・ミュンヘン国際空港に次いで2例目、まして電気自動車もなかなか使われなかった ランプバスという領域にいきなり先進の燃料電池自動車である。
但しこれに乗るには特殊な条件があり、一般の航空旅客であってもある条件を満たさなければ乗ることができない。 旅客機に搭乗する場合、通常はターミナルビルに直結しているボーディングブリッジを使い、 ブリッジ直結のスポットが満杯であふれた場合や機体の大きさの関係でスポットに入れない場合に、 オープンスポットと呼ばれるターミナルビルから離れた駐機スポットに止めることがある。 そのオープンスポットにこれから乗る飛行機がいる際にターミナルビルとの間でバスに乗ることがあるが、 そのバスがランプバスという車。 大規模な空港では通常のバスよりも大きな車幅3m以上のワイドボディ(国産バスは最大幅2.5m)を持つ車もある。
中部国際空港発着便では主に全日空系列のエアーセントラルが運行するフォッカー50とデ・ハビランド・カナダ (現ボンバルディア)DHC−8系を使う便でなければランプバスの世話になれないが、 近い将来エアバスA380が飛んできたら国際線でもランプバスを使う機会が発生するだろう。 できることなら往路か復路をエアーセントラルの成田線にしてランプバスにも乗りたかったが、 「私上最悪の財政窮乏期」ゆえにそんな贅沢ができなかったので、今回は展望デッキから眺めるほか、 竣工したばかりの水素ステーションにも行ってみる。

これまで中部スカイサポートが使用していたランプバスは三菱エアロスターで、小牧の名古屋空港(現在は愛知県営)から 持ってきた車なのか、まだツーステップのまま。 低床車の導入も時間の問題かと思われていたが、今回のFCHV−BUS導入でそれも併せて実現した。


FCHV−BUS中部スカイサポートバージョン。どう違うかわかるかな?
外観は知多乗合バージョンに準じたものだが、ナンバーは営業用ではなく自家用登録になっており、 側面の方向幕は使わないためラッピングフィルムで覆われていた。 違うのはフロントのCのエンブレムが万博時代と同じ日野自動車のHのままだが、 羨ましいのは中部スカイサポートのCSSロゴが前バンパーと側面の優先席部分に追加されたこと。 こんなことなら知多乗合車のシンボルというべきかもめを追記してほしかったとは運転士の弁だが、 僕も同感だ・・・というよりわかりきったことではなかったか?デザイナーに再考を求めたい。

今回竣工したJHFCセントレア水素ステーションは空港の北側、中部空港警察署の近くの角地にあるのは 前回行って掌握済みなので、引き続き貨物地区循環線に便乗する。 昨年開催された愛・地球博の瀬戸会場に設置されていた水素ステーションの設備を再整備の上でこの地に移設したもので、 運営には引き続き新日鉄・東邦ガス・大陽日酸が携わっている。
行ってみると、ちょうど名古屋230さ・602のナンバーをつけたFCHV−BUSが水素ガスを充填していた。 前後して今度は名古屋230さ・603も充填に現れたが、まだ充填が終わらないのか水素ステーションの周囲を回って 順番を待っていた。
ちょっと待て・・・タイミングが良かったらFCHV−BUS同士のすれ違いのシーンが撮れるかもしれない! そう確信して待っていたら、充填を終えて出てきたばかりの603号車と貨物地区循環線の601号車が うまい具合にすれ違い、運転士に思わず親指を突き上げて「うまく撮れたぞ!!」と合図を送った。


この日は地元のバスファンS氏とのFCHV−BUS初乗りを計画していたが、幸い本人とは復路で落ちあった。

その日は名古屋に泊まり、翌7月23日も再びセントレアへ乗り込む。
名駅から直通のミュースカイは満席、金山始発の「一部指定席」特急があったのでそれに乗ったはいいが、 名古屋本線と同じパノラマスーパーが来ると思い込んで1号車の若い番号の指定席を買ったら、 来た車は無情にもミュースカイ2000系の兄弟2200系。つまりパノラマスーパーについている展望席がないのだ。 昨日は7001Fに乗れたというのに・・・
(2200は主に岐阜発着の空港特急に入っていて、豊橋発着ならパノラマスーパーがよく入っているので)

セントレアの展望浴場「宮の湯」(900円)で一息ついてからランプバスの撮影に着手する。 ランプバスは展望デッキの付け根部分で待機しているのだが、フォッカーやダッシュエイトが来ないことには ランプバスは動けないわけで、出番がなかなか来ない。 最悪なことに止まっている位置が悪くて、広角だろうと望遠だろうとどのレンズを使っても屋根が映り込む。 その間を国際線の撮影に回したくても、空気が汚れているのか機体が霞んで見えるので、 フィンエアーのMD11(しかもムーミン塗装)が来たというのにレジ(登録番号)すら判読できない状態・・・

一度常滑へ戻り、バス通りを歩いてあいち知多農協(JAアグリス)本店へ向かう。 常滑市内の走行シーンを撮るべく戻ったとはいえ、知多半島で見られる古い造りの家並みは見られても、 僕の求める「これぞ常滑だ」「これぞ半田だ」と思わせる所をFCHV−BUSが走っていないのが残念。 今回の所はこれで妥協し、再びセントレアに戻ったが、沿線地域らしいカットは撮り直す腹でいる。


しかしこの日は往路で運転士が操作を誤って立ち往生させたようで、別件も兼ねて昨日の運転士が様子を見に来ていた。 何億円もする超高級車を壊さないように・・・

セントレアに戻り、昨日に引き続き水素ステーション周辺でランプバスを撮影する。 水素ステーションの向かいにセブンイレブンがあるのも好都合だ。 休日は13時30分頃になるとランプバスが水素ガスを充填にやってくるので、 FCHV−BUSでセントレアにやってきたら、まずは水素ステーションへ行かれることをおすすめしたい。 なお知多乗合バージョンはダイヤから推測すると15時頃に充填する。

しかし展望デッキに戻ると頭を痛める事態が発生した。
日本航空のたまごっちジェット(JA8978:ボーイング777−200)と全日空のポケモンジェット (JA8288:ボーイング767−300)がセントレアに来ていて、これを見に来た子供の歓声がやかましくて 撮影に集中できない。 更に停車中のランプバスを撮りたくても真上の位置を子供達に乗っ取られているため撮影に難儀する。 こうなってしまっては何もできない・・・と思ったが、まだ撮るべき部分があった。屋根上のカット:俯瞰である。
ランプバスはいつでも俯瞰で撮れるが、知多乗合バージョンは半田のクラシティと歩道橋くらいでしか狙えない。 しかしガラス越しという難点はあるが空港ターミナルビルに直結する駐車場からなら何とかなる・・・と思ったが、 角度が浅すぎて結果はご覧のとおり・・・


最後はそのまま走行音を録音して知多半田に向かった。しかしここでも子供連れが厄介な存在になってしまう。 乗りに来てくれたのはいいとしても、静かさが売り物のFCHV−BUSの中で泣かれてしまうのが困る。 結局その家族は最初の常滑駅で降りたものの、生録はリハーサルなしの生演奏の録音より厳しいので、 子供の状態と親の技量、乗り合わせの運にかかっているといっても過言ではない。
都バスは一日券(バス用500円、都営地下鉄・都電兼用タイプ700円)やバス共通カードがあるので、 3往復の間ならやり直しができたし、万博の時は一度会場に入ってしまえば瀬戸会場が閉まるまでいくらでも乗ることができた。 しかし今回の知多乗合では勝手が違う。貨物循環は何回か走っても知多半田駅〜常滑駅〜セントレアは1日1往復だ。 そのため一回の録音なり撮影にはかなり神経をとがらせて臨まざるを得ない。


今回知多乗合バージョンのFCHV−BUSに乗って感じたのは、 「事業者が低公害車や新技術への関心が薄いと、燃料電池車への力の入れ方も中途半端になる」こと。
都バスでは公営交通事業者という特性もあるが低公害車への関心は比較的高く、 CNG(圧縮天然ガス)車やハイブリッド車を比較的早期に導入しているため、 FCHV−BUSの運行もその延長上にあったと見てよい。
しかし知多乗合は中古車を含めてCNG車もハイブリッド車も導入実績がないところに いきなり燃料電池車がやってきたという状況なので、まだ惑いがあったり積極的になったりできないのだろう。 ただ名鉄グループ全体を見ても低公害車の導入率は低く、乗鞍岳周辺に路線を持つ濃飛乗合が 蓄圧式ハイブリッド車(三菱エアロスターMBECS)、名鉄バスと岐阜乗合が電気式ハイブリッド車 (三菱エアロスターHEV)、北陸鉄道がクセニッツのCNG車を導入した程度である。
その一方で平成14年からNOx・PM法による排ガス規制が愛知県の一部地域でも施行された。 知多半島では先端の美浜町と南知多町が規制対象地域から除外されているが、 近い将来愛知県全域に拡大された場合は知多乗合もハイブリッド車またはCNG車の投入、 もしくはFCHV−BUSの増強を考えなければならない。 幸いセントレア水素ステーションの向かいにCNG充填所があるので、CNG車投入は時間の問題だろう。
なお中部地方ではCNG車が富士急グループや山梨交通で、ハイブリッド車が松本電鉄や遠州鉄道で活躍しており、 名鉄グループも低公害車の導入に積極的になってほしい。




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