ただ個人的には環境に優しいこの車を午前中のたった3往復だけで引っ込めてしまうのが、
「虎の子」とはいえ何とももったいないような気がする。その理由を検証してみたい。
・「足枷」その1.水素ステーション
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ひとつは車両及び水素ステーションの運営や設置の制約がある。 現在水素ステーションはJHFCによる実験でテスト車のみ(※)が使っている状態なので、 使える時間が主に平日の9時〜17時に制限され、S−L111が利用する有明のみ 例外的に休日も稼働させている。 ※有明では他に貨物航空会社フェデックス がゼネラルモータースからオペルザフィーラ(スバルトラヴィック)ベースの「ハイドロゲン3」を借り受け、 有明営業所で配送車としてテストしていた。(但し休日は休業) 17時といえば下校時間帯〜退勤ラッシュまっただ中だが、混雑に備えて輸送力を確保したい時間帯に 入庫させるのは非効率である。 また路線・貸切を問わずバスは出庫時は満タンが原則で、次の出番に備えて入庫時に給油することが多いため、 運営時間帯にあわせてのんびり「充填してから営業開始」というわけにいかないだろう。 (かといって早朝では水素ステーションがまだ開いていない) そうなると「門限」に間に合わせるには実質的に朝〜日中だけしか使うことができない。 できることなら水素ステーションの運営時間帯を拡大:日中だけでなく夜も利用できるようにして、 L111が夕方の退勤ラッシュ時にも活躍できることを切に願う。 何も現行のダイヤでは調査や試乗がしにくいひがみではないけれど、現行の時間帯では土休日はともかく 平日の日中は多くの人は仕事中、子供なら授業中で乗れる機会が乏しい。 これが夕方や夜も走れば仕事帰りや下校時に乗ることも見ることもできるので、 より多くの人に燃料電池車の低公害性や先進性をアピールする意味でも乗車機会の拡大は必要だ。 (別掲の「作品」も朝のカットは多いが夕方〜夜のカットは皆無・・・)
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水素充填設備を好きなときに使えれば、 そして設置条件の制約がなければ S−L111はもっと活躍できたのだが・・・ (JHFC有明水素ステーション) |
S−L111が「夜に走った」のは平成15年9月の バスフェスティヴァルの回送入庫のみだったような・・・ (愛・地球博では僅かながら夜も走っている) |
もっとも時間的な制限をなくすなら営業所や社有地に自前の水素充填装置を増設させれば話は早いが、
一式設置するのに数億円のオーダーといわれており、まだ1台しか燃料電池バスがいないときに
そんな投資は補助金を支給・融資してもらえない限りバス会社には荷が重い。
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ガス改質式の水素ステーションなら エコステーションへの設置の道が開ける? (東邦ガス総合研究所の水素ステーション) ※写真提供:PEM-DREAM |
本格的な水素供給設備ができるまではガス改質式の 水素精製・供給設備を搭載したトラック(コンテナ)でしのぐのは? (JHFC青梅水素ステーションで稼働中の水素製造設備車) |
S−L111が使っていた有明水素ステーションでは、新日本製鐵君津製鉄所からタンクローリーで
液体水素を搬入して所内のタンクに貯蔵、気化して充填している。 |
1.JHFC参画の水素ステーション | ||
所在地【方式】 | 原料 | 参加企業・団体 |
東京都江東区有明 【液体水素貯蔵式・オフサイト供給】 |
石炭乾留ガス(COG) |
東京都環境局(都有地) 岩谷産業、 昭和シェル石油 ※液体水素製造:新日本製鐵 |
東京都荒川区南千住 【液化石油ガス改質式】 |
液化石油ガス (プロパン:ブタン混合=3:7) |
東京ガス(同社施設内)、 大陽日酸 (旧大陽酸素・東洋酸素・日本酸素) |
東京都千代田区霞ヶ関 【移動式高圧水素貯蔵式・オフサイト供給】 |
不明(外部より搬入) |
大陽日酸 ※経済産業省敷地内 |
東京都青梅市 【都市ガス改質式・車載機器タイプ】 |
天然ガス(都市ガス) |
バブコック日立 |
神奈川県川崎市川崎区小島町 【メタノール改質式】 |
メタノール水 |
ジャパンエアガシズ (系列会社の川崎オキシトン敷地内) |
神奈川県横浜市鶴見区 【オフサイト供給】 |
副生水素(食塩水電解) ※タンクローリー搬入 |
鶴見曹達(同社敷地内)、 岩谷産業 |
神奈川県横浜市旭区 【ナフサ改質式】 |
ナフサ(タンクローリー搬入) |
新日本石油 |
大黒(神奈川県横浜市鶴見区) 【脱硫ガソリン改質式】 |
脱硫ガソリン ※ガソリン精製段階で硫黄分を除去 |
コスモ石油 (同社敷地内、JHFCパーク併設) |
千葉県市原市 【灯油脱硫・改質式】 |
灯油(タンクローリー搬入) ※精製装置に脱硫機能あり |
出光興産、
三菱化工機 ※秦野市にあった設備を出光興産中央訓練所付近に移設 |
神奈川県相模原市 【アルカリ水電解式】 |
水 |
栗田工業、
シナネン、 伊藤忠エネクス |
愛知県常滑市 【都市ガス改質・液体水素貯蔵併用】 ※中部国際空港ランプバス&路線バス用 |
天然ガス(都市ガス)・ コークス炉ガス(オフサイト供給) |
東邦ガス(ガス改質) 新日本製鐵(液体水素) 大陽日酸 ※愛・地球博水素ステーション設備を転用 |
2.WE−NET(World Energy Network)
参画の水素ステーション
※上記の鶴見曹達水素ステーションも対象 |
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所在地【方式】 | 原料 | 参加企業・団体 |
大阪市此花区酉島 【都市ガス改質式】 |
天然ガス(都市ガス) |
大阪ガス、
岩谷産業 |
香川県高松市 【水電気分解式】 |
水 |
四国総合研究所 (四国電力系列) |
3.その他の水素ステーション(企業・官公庁・学校などが設置したもの) | ||
所在地【方式】 | 原料 | 参加企業・団体 |
愛知県東海市 【都市ガス改質式】 |
天然ガス(都市ガス) |
東邦ガス (同社総合研究所内) |
屋久島(鹿児島県熊毛郡上屋久町?) 【水電気分解式】 |
水 |
屋久島電工 ※屋久島クリーンエネルギーパートナー構想 |
調査中 | 日本各地に100か所以上(2006年末現在) |
・「足枷」その2.試作車故の特殊事情?
この車はまだ実験段階である以上、故障時や平常時でも技術評価のためトヨタないし日野の技術スタッフを
深川営業所に派遣させている可能性がある。
そのため営業所は開いていても、GW・盆休・年末年始など連休中はトヨタ&日野の技術者やメカニックが
休暇を取ってしまうことが考えられるため、S−L111が故障しても彼らを営業所に呼び出すことが
不可能な場合もある。
・「足枷」その3.その他
そのため通常の路線バスなら月に2500kmとしても年間3万kmは走るのに、
平成15年8月末のデビューから平成16年末の営業終了までL111が営業運行で走った距離は
1万7400kmと4割程度。
連休時の運休やマイナートラブルなどによる足止めが響いて、運行日数も256日に留まっている。
貸切バスの必要最低稼働率(年間の60%=219日以上)よりも少ないのには驚いたが、
参考までに東京・新宿と福岡を結ぶ西鉄の夜行高速バス「はかた」(片道1150km)が
月平均で2万km以上走っていることを考えると、いくら実験車とはいえS−L111がもったいないような
気がしてならない・・・
しかし愛・地球博バージョンは会場間シャトルバスとして6か月間とはいえ
1日に10往復以上走ることでS−L111の走行データを補完するため、
こちらのデータがどうはじき出されるか期待したい。 |
今回S−L111には「他の都バスにはない装備」として液晶ディスプレイがあるが、
他にも1台しかない特殊性故にモーターショー展示車並の「特別仕様」で「近未来の路線バス像」を
提案してもよかったような気がする。
・車載ディスプレイの有効活用を |
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S−L111運転席背面: 放送装置と連動させて案内に使用 |
S−L111車両中央: CGによるオリジナルビデオを放映 |
ただそれでは月並みなので、「これぞ燃料電池車」と思えるビジュアルとして、
パワーレベル表示を客室で見ることができたら楽しかったと思われる。
平成17年3月のJHFCセミナーや同年10月の東京モーターショーで
乗用車タイプの燃料電池自動車に試乗して気づいたのがこの装備で、
車種により表示形式は異なるが通常ナビゲーション画面に使われるディスプレイに
燃料電池スタック(&二次電池)とモーターの間で電流がどのように流れているかを表示する。
数値やグラフなどで電流の動きを視覚的に楽しむことができれば、乗る価値も増すことだろう。 同様に運転席の計器板(インパネ)はエンジン回転計の部分が空いているので、 そこにモーターの電流計を設置することをあわせて提案したい。 アクセルのオン・オフと電力回生ブレーキで針の振れ方が変わるので電流の向きがわかるだけでなく、 運転士には省エネルギー運転を心がけ急加速を抑制するきっかけになる。 技術者が添乗するときくらいで十分かもしれないが、一種のアトラクション要素と考えていただければ 幸甚である。 |
日産エクストレイルFCVのインパネ 速度計・タコメーター・水温計・水素圧力計の他に電源・電流計が備わる。 タコメーターのレッドゾーンが1万2000回転から始まっているのが特徴的。 ナビゲーション画面には水素と電気の動きが表示される |
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GMハイドロジェン3のナビゲーション画面 こちらは燃料電池スタックの稼働状況が折れ線グラフと数値で表示される |
・ 既に都バスでは虹01にPTPS(Public Transportation Priority System:公共交通優先システム)を導入し、 バスが来たときに青信号の延長や赤信号の短縮を行うことで定時運行を確保、平均7%のスピードアップ効果が 現れている。 但しそのためには車両側にもPTPSのトランスポンダーを搭載する必要があり、 港南支所&深川営業所所属車両でトランスポンダーを搭載した車両については フロントにレインボーブリッジをイメージしたイラストを描いて識別している。 |
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