平成16年12月末の東京都交通局におけるS−L111の営業運行終了に続いて、
中部地区では初登場となる燃料電池バス:FCHV−BUSの愛・地球博バージョンが
平成17年3月25日から9月25日まで長久手会場〜瀬戸会場間のシャトルバスとして運行された。
行かれた方は当時を思い出して、残念ながら行かれなかった方は想像しながらご覧いただきたい。

「東京駅東西ハイブリッドバス乗り比べ」FCHV−BUS編(補遺)
愛・地球博 燃料電池バス試乗レポート

一挙8台+1台の「大盤振る舞い」

愛・地球博のFCHV−BUSは 愛知県長久手町と瀬戸市にある2つの会場を結ぶシャトルバスとして 平成17年1月に8台が製作され、昨年末で惜しくも退場となったS−L111に代わって JHFCプロジェクトに参加している。
(後に改造か新製で1台が追加され戦列に加わっている)
今回の導入の背景には瀬戸会場周辺の環境保護という目的があり、瀬戸会場の閉場が18時〜19時台と早いのは 会場の照明や騒音で動植物に影響を及ぼすことを抑える目的があった。 また瀬戸会場に出入りするシャトルバスには低公害車を採用するよう地元の瀬戸市や豊田市などから求められており、 長久手会場を結ぶ会場間シャトルバスにはFCHV−BUSに白羽の矢が立った。

東京都交通局で平成15年8月から16年末まで
営業運行に供されたFCHV−BUS(S−L111)
注目すべきは車両数と運行頻度だけではなく、燃料電池車に必要な水素ステーションも2種類を採用して 比較検証を行うこととなった。 欧州10都市でダイムラークライスラー・シターロ燃料電池バスを使うCUTEプロジェクトでさえ 各地域で3台、水素ステーションは各1箇所なので、実証実験としては世界レベルでも最大級、 S−L111からすれば大きな飛躍といってよい。
(但し実験期間は万博開催期間の6か月に対しCUTEプロジェクトが3年、S−L111は実動1年2か月)


瀬戸会場〜万博八草駅間のシャトルバスには名古屋市バスの、
CNGノンステップ車を配車(瀬戸会場)
関連して瀬戸会場と万博八草駅を結ぶシャトルバスには、名古屋市もパビリオンを出展している関係で? 名古屋市交通局の協力を得て CNG(圧縮天然ガス)ノンステップ車を配車、車両を日野ブルーリボンシティで揃えることで FCHV−BUSとの統一感を出している。
(但し同局や名鉄、リニモなどで使える共通SFカード「トランパス」は使用できない)
※繁忙期にはJR東海バス名鉄バスのハイブリッド車 (JR:日野ブルーリボンシティハイブリッド、名鉄:三菱ふそうエアロスターHEV)も FCHV−BUSの応援でやってくるが、残念ながら僕が行ったときには遭遇できず・・・

今回導入されたFCHV−BUS「万博バージョン」はトヨタ自動車の所有で、 万博協会にリースして送迎バスの扱いで走るためか、自家用登録(白ナンバー)となっている。
開幕前の報道公開で3台がお披露目されたときはトヨタの本社がある豊田市が属する 三河ナンバーで登録されていたが、会期中は瀬戸会場に常駐して トヨタの工場へは整備のときに帰るのみのようで、残る6台を含めて開幕までに瀬戸市の属する 尾張小牧ナンバーで再登録、同時に希望ナンバー「2005」を取得している。

登録番号は下記のとおり:

表1.車番と登録番号対照表
車番 登録番号 万博会期外:一部推定
1号車 尾張小牧230さ2005 三河200は・346
2号車 尾張小牧230す2005 三河200は・347
※万博終了後は三河200は・400→三河230は・605で再登録
3号車 尾張小牧230せ2005 三河200は・348
4号車 尾張小牧230そ2005 不明
5号車 尾張小牧230た2005 不明
6号車 尾張小牧230ち2005 不明
7号車 尾張小牧230つ2005 不明
※万博終了後は三河200は・402〜知多乗合貸与により名古屋230あ・601で再登録
8号車 尾張小牧230て2005 不明
※万博終了後は三河200は・401→三河230は・604で再登録
9号車 尾張小牧230と2005 不明
自家用車のナンバープレートのかなは「さ行」から「ら行」まで。 但し「し」は除外、「れ」と「わ」はレンタカー用。「を」は営業用。
1号車〜3号車は ぽると出版「バスラマインターナショナル」 平成17年3月号(通巻88号)に掲載

バス・タクシー・トラックで他の営業所へ転属したときや、 マイカーでも引っ越しや個人間での購入・売却をしたときは、 各都道府県の陸運支局に移転を届け出なければならない。
(自動車やオートバイの個人売買で「名義変更を確実にしてくださる方希望」と注記があるのはそのため)
その際に同じ都道府県同士なのにナンバーが変わる場合があるのは、その都道府県に複数の車検場
(ナンバーの地域表示)があるためで、車検場ごとに管轄する市区町村が定められている。

詳しくは国土交通省自動車交通局 「自動車登録・検査ガイド」 および 全国の運輸支局・車検場一覧を参照のこと。
※愛知県の場合は中部(豊田・岡崎・安城など)を管轄する三河、
 西部(小牧・一宮・犬山など)を管轄する尾張小牧の他に、
 名古屋市周辺と知多半島の名古屋ナンバー、豊橋・長篠・蒲郡・渥美半島など東部の豊橋ナンバーがある。

ベース車は都バスS−L111号車と同じく日野ブルーリボンシティのノンステップ車で、 基本的なメカニズムはS−L111を踏襲しているが、愛・地球博バージョンでは 屋根上の形状がパーツのレイアウト変更に伴い大きな変化が見られた。概要については下記のとおり:
表2.都バスS−L111号車からの変更点
項目 仕様・目的(一部推測)
水素タンクの増強 航続距離延長
※150リットル@35メガパスカル×5基→7基
水素タンクおよびエアコンの
位置変更と屋根形状変更
水素タンク増強によるエアコンの小型化と前への移設
前後重量バランスの再調整と配管の短縮
屋根水素タンク部分のグリル化 タンクの水素ガス漏れ対策?
燃料電池スタックの改良 従来型は水素ガス漏れが指摘されていた
側窓固定化と窓フィルム装着 デザイン性の確保
空調効率の改善
機器室の拡張 機器レイアウト変更
排熱対策
屋根吸気口・排気口の形状変更 機器室の排熱対策
燃料電池排水口の位置・形状変更 排気効率改善?
折りたたみ座席の変更 標準ノンステップバス準拠?
横向き3人×2→前向き1人×4
DVDプレイヤー&薄型テレビ設置 オリジナルプログラム上映(5基)
つり革の復活 乗客の安全性確保?

都バスS−L111号車では水素タンクが前にあるため屋根のふくらみがすぐに立ち上がり、 そのままエアコンを経て後部の吸気・排気口につながっていた。
しかし愛・地球博バージョンでは水素タンクを5基から7基に増強して設計上の航続距離を250kmから 350kmに延長すると同時に、タンクの位置を前から中央に変更したことで屋根上の傾斜が緩やかになり、 一見空気抵抗の低減を狙った設計にも見える。エアコンは入れ替わるように前に置かれることになった。
(エアコン本体はケーシングに隠れて見えないが、エアコンの外気取り込みルーバーが前にある)


窓にもラッピングフィルムを装飾して車体全体をデザインした例
(ジャルツアーズのディズニーリゾート関連ツアー参加者
 専用バス:東京空港交通「マジカルファンタジー号」)
※現在はデザインが異なり窓フィルムは廃止されています
デザインは愛・地球博のテーマカラー、白と緑をベースに水(水素)の流れをイメージしたもの。 側面は運転時の視界に支障する運転席と前ドアを除いてすべてラッピングフィルムで覆われており、 トータルデザインだけでなく空調効果も考慮したものとなっている。
窓のフィルムはハニカム風に細かい穴が開いていて、バスでも車体広告を中心に採用例がある。 室内灯を点灯する夜や、昼でも光線状態によっては室内が微かに見えるが、客室からは外が見え、 網戸を通して見る感覚だ。


窓は特殊フィルムで装飾されてデザイン性と空調効果を考慮:車外(左)と車内(右)からの見え方

車内はつり革が復活したほか、座席のデザインがシンプルなものになった点は意外だった。
万博バージョン故に都バスS−L111号車では背もたれ部分のみんくる(都バスのオリジナルキャラ)が キッコロ&モリゾーに替わるか、外部デザイナーに依嘱して更に派手なものになると予想していたが、 実際は万博終了後の転用を想定したためか、座席は優先席も含め青1色、 天井と壁はS−L111のダークグレーから白1色とシンプルなデザインになっている。
またS−L111よりも多くの乗客を乗せることは十分考えられるのに、車椅子乗車スペースの折りたたみ座席が 横向き3人席×2組から前向き1人席×4席に変わり、ただでさえ少ない座席定員が25人から23人に減ったが、 後述するDVD上映と昨今の 国土交通省認定標準仕様ノンステップバスに 準拠させたためかもしれない。 その割にはベース車の泣き所で、後部座席が相変わらず3列(2+2人席×2列+最後部5席=13席)しかないのが 残念なところ。 せっかくFCHV−BUSの”姉妹”で、JR東海バスが会場間シャトルバスの応援で持ってくる 日野ブルーリボンシティ・ハイブリッドでは、後ろの床をかさ上げして座席の5列 (後部20席:車両全体で計29席)配置が実現したのだから、 座席定員を確保すべく再設計してでも4列(17席)にして欲しかった。


シンプルなデザインになった座席(優先席)
車椅子用のスロープ板(白い板状のもの)が座席の下に収容されている

名鉄バスがFCHV−BUSの応援で持ってきた
エアロスターHEV(1450)

FCHV−BUSのキーデバイス、燃料電池スタックは改良型の固体高分子型90キロワット×2台、 モーターは交流同期型80キロワット×2台と構造を二重系にして性能とフェールセーフの確保を兼ね、 ハイブリッド機構の要となるバッテリーはトヨタプリウス用ニッケル水素電池(4基)を採用する点は S−L111と変わらない。

屋根の機器レイアウトはこのように変わった!
↓都バスバージョン

・水素タンクは車両前部(5基)
・屋根の立ち上がりカーブが急峻
(エアコンは車両中央部)
・後ろのオーバーハングはベース車そのまま
・硬質プラスチック製シート
・フロントの日野マークが東京都の銀杏
(末期はグリーンアローズのヘッドマークに交換)
・側窓が逆T字(上半分が開閉可)

↑愛・地球博バージョン

・水素タンクは車両中央部(7基)
・屋根の立ち上がりカーブが緩い
(エアコンは運転席の上)
・後ろのオーバーハングを拡張
・クッション入りシート
・側窓はすべて固定
(特殊フィルムで装飾)

※もっとご覧になりたい方はディテールファイルをご参照:

所要4.4km、10分の「体験試乗」

今回万博バージョンのFCHV−BUSに乗るにあたって、僕としては敢えて 「失った”片思いの恋人”の妹たち」という表現をしたい。
平成15年夏から平成16年末まで東京都交通局にリースされて日本初の燃料電池バスの営業運行に供された S−L111は、都バスで唯一のブルーリボンシティだったこともあって幅広く注目を集めていた。
しかし「初物づくし」の華やかさとは裏腹に、実際には固定ダイヤや車両整備などで数々の制約があり、 加えて事故に遭ったり機器の故障で足止めを喰らったりするなど思うように活躍できず、ある意味で ”悲劇のヒロイン” だったといえよう。
そして期間限定というプレミアムがついていたことから、ほぼ週末毎に八重洲や深川、臨海副都心へ出かけ、 平成16年末の引退まで何度となく”彼女”に乗車し、撮影している。
そのS−L111で果たせなかった思いを”妹たち”で補うべく(爆発させるべく?)、 愛・地球博へ行ってFCHV−BUSに乗る機会を探していたが、燃料電池の普及啓発に取り組んでいるNPO法人 ”PEM−DREAM”が七夕の頃に 名古屋近郊にある燃料電池関連施設の見学を盛り込んだ万博ツアーを企画していたため、 それに参加することで晴れて”妹たちに逢えた”わけである。(別項で報告予定)
走行ルート:
長久手会場〜県道力石名古屋線〜(陶磁資料館南駅)〜(万博八草駅)〜猿投グリーンロード(八草東IC)
〜県道広久手八草線〜(愛知工業大学 八草キャンパス西側)〜瀬戸会場

朝9時の開門と同時に長久手会場入りした我々は、まず北ゲートの近くにある会場間シャトルバス乗り場に向かった。
こう書くと北ゲートから入れば近いのに・・・と思われるが、一度東ゲートの方へ行ってから戻るような感覚になるので 遠くても東ゲートから入ればスムーズに行けるのだ。 もっとも北ゲートよりも東ゲートの方が並ぶスペースが広く、JR中央線〜愛知環状鉄道や地下鉄東山線〜リニモよりも 高速車や貸切車を使うシャトルバスの方が快適という理由もあるが。

FCHV−BUSは長久手会場ではリニモ万博会場駅高架下に設けられた専用の乗り場から出発する。
瀬戸会場との間は会場の外へ一時的に出て一般道路を走るため、FCHV−BUS通用門の警備が厳しい。
加えてリニモの高架が頭上にあることで影が気になるし、後輪が縁石に引っかかるので外側へ膨らむような ライン取りを期待しなければならないので、まず長久手会場ではバスファンの望む 左前向きのカットを収めることは会場の外へ出ない限り困難だろう。


長久手会場でFCHV−BUSの撮影は思ったより難しい!
(どう頑張っても後輪の一部が縁石に隠れる)

長久手会場のバス乗り場
(リニモの高架の影がわかるかな?)
今回来たのは9台あるうちの8号車、ナンバーは尾張小牧230て2005。
前と後ろのLED表示器は「会場間燃料電池バス」とあり、”会場間”クローズドで行き先表示は必要ないのか、 側面のLED表示器は用意されているが、上の写真にもあるように仰々しくも前中ドア間の窓3枚分(右側2枚分)に わたって
FCHV−BUS
FUEL CELL HYBRID VEHICLE
HINO

TOYOTA

と大書されたラッピングフィルムで殺している。
その代わり運転席のダッシュボードに「長久手行き」「瀬戸行き」のプレートを掲出しているが、 路線免許で走らせていないから国土交通省もそこまではうるさくないとはいえ、 それならなぜ前後のLED表示器に「瀬戸会場行き」もしくは「長久手会場〜瀬戸会場」のように表示せず、 横にプレートでもいいから行き先表示を用意しなかったのか疑問が残る。
鉄軌道扱いで走らせているIMTSでは自動放送が入り、車内の特殊ディスプレイと 東京メトロ南北線ばりのホームゲートに行き先や案内が表示されるのに・・・

車内には薄型ワイドテレビが左に1台、右に2台、天井にも2台の計5台が装備されているが、 後述するオリジナルDVD専用のようで、 「このバスは○○会場行き」「次は○○会場」の台詞は音声でも字幕でも現れなかった。
降車ボタンと運転席の知らせ灯もあるが、ガキがいたずらで押す以外はまず使われないだろう。
運行中は肉声での車内放送がほとんどなく、出発時と到着時に僅かに放送が入るのみだ。
「本日は燃料電池バスにご乗車くださいましてありがとうございます」というアナウンスはあったが、 車内放送で燃料電池バスを紹介する台詞がなかったのが意外だった。その理由は後述する。

乗務員は基本的には運転士1人で、ガイドかアテンダントの女の子が添乗すると思って乗りに行くと 肩透かしを喰らう。 添乗はしないものの、乗り場で乗客への案内・誘導や車椅子の乗降補助などを務める 地上職員に女性はいるが、運転士・地上職員共に制服はグリーンとグレーのポロシャツに チノパン+キャップというスタイルで、作業服とされている。


FCHV−BUS担当スタッフの制服が「作業服」だったとは
(瀬戸会場)
実際に乗るまでは従来の概念から、乗務員の制服は実際のバス会社にありそうな、 万博スタッフなら儀礼隊か警備隊の制服に近いデザインをイメージしていたため、こちらも肩透かしを喰らった。 これではバス運転士というより宅配便のセールスドライバーかガソリンスタンドの店員のイメージだが、 点検整備や緊急時の作業、場合によっては地上係員の応援にも回るのでこのようなスタイルに落ち着いたのだろうか。 動きやすくカジュアルで特に若いスタッフには受けるかもしれないが、いくら盛夏期を考慮した くだけたスタイルとはいえ、譲歩してもせいぜいノータイの開襟ワイシャツがいいところ。 アテンダントを添乗させるとしたら、制服はどんなデザインで用意されたのだろうか。 運転士や地上職員も含め検討してみたいところだ。

運賃は無料だが、入場券にICチップを埋め込んでいるのなら乗車口にカードリーダーを設置して Suicaのように入場券をかざすような「儀式」があってもいい。 無意味かもしれないが、会場間流動調査でゴンドラとバスの分布を調べる際には有効な手段になりうる。

乗り場を半周してリニモの高架下から長久手会場を出ると右折して力石名古屋線に合流、 リニモに沿って八草方面へ進む。 この辺りは名古屋東部丘陵というだけあって緩やかなアップダウンがある。
この力石名古屋線は前後の名古屋瀬戸道路と猿投(さなげ)グリーンロードをつなぐため 片側2車線の高規格道路として設計されており、加えて万博期間中は長久手会場周辺で 一般車の通行が規制されているため、コンスタントに法定最高速度の60km/hが出せる。 平坦路が多く比較的乗客が少なかったS−L111に比べると、愛・地球博バージョンでは 満員での運行機会が多く、地形の関係で燃料電池+バッテリー放電で登ったら回生ブレーキで充電しながら下る 走行パターンが繰り返されるため条件は厳しく、性能や耐久性を確認するためには絶好のテストフィールドとなる。

力石名古屋線を快走(陶磁資料館南駅)

FCHV−BUSの速度計はベース車同様120km/hまで刻んであるとはいえ、 市街地での運行を前提としているのか設計最高速度は80km/hだが、 全開で高速道路の法定最高速度100km/hは出せるか気になった。 FCHVの乗用車バージョンでは設計最高速度155km/hで、”−BUS”にはそのコンポーネントを 2組載せているとはいえ、空車重量で12トン程度、定員乗車なら15〜16トンはあると思われるので、 100km/hは苦しいか?

車内のビデオプログラムではS−L111のような技術紹介かキッコロ&モリゾーのオリジナル作品を 期待していたが、全然異なるオリジナル作品「空からの使者ケロケ郎」のDVDが上映されていた。
内容は地球温暖化と燃料電池車について童話調にしたものだが、個人的にはケロケ郎を流すくらいなら 乗り場のインフォメーションボードで上映している燃料電池車PRビデオをそのまま流した方がまだいい。 逆にケロケ郎をベースに車両をデザインすれば捉え方が変わったかもしれない。


広久手八草線はここから海上の森を抜ける予定
(瀬戸会場へはここで左折、右は愛知工大)

愛知工大を過ぎれば瀬戸会場はもうすぐ
力石名古屋線が高架になりリニモと同じくらいの高さになると万博八草駅で、その先は有料道路の 猿投グリーンロードとなる。 愛知環状鉄道の万博八草駅を越えてリニモの引き上げ線が終わる辺り:料金所手前でインターチェンジを降りると、 左折して県道523号広久手八草線に入る。 この広久手八草線は万博開幕にあわせて供用された新道で、瀬戸会場のある海上(かいしょ)の森を抜けるように 計画されていたようだが、万博会期中は工事が中断されているようで、FCHV−BUSと万博八草駅〜瀬戸会場間の シャトルバスが走る区間:愛知工業大学周辺のみが先行開業した様子。 その広久手八草線は愛知工大の裏門で止まっていて、未成区間の一部が瀬戸会場への裏口になっているようだ。
FCHV−BUSと共に長久手会場と瀬戸会場を結ぶロープウェイ 「モリゾーゴンドラ」の索道を過ぎたあたりにシャトルバス専用の取り付け道路があって、 FCHV−BUSと万博八草駅からのシャトルバスはそこへ入っていく。
地下トンネルの愛知環状鉄道を跨いで南からバスターミナルに入り、後述する2つの水素ステーションの前を通過すると 瀬戸会場終点となる。ケロケ郎のDVDもちょうど瀬戸会場に着く頃に終わるようになっていた。

2種類の水素ステーション

瀬戸会場に降り立った我々は、10時からのJHFC水素ステーション見学ツアーに参加する。
ここでは2種類の水素ステーションを採用して自動車用水素ガスの安定供給と性能・コストなどの比較実証を行い、 FCHV−BUSだけでなく万博協会や出展団体が会場で使用する燃料電池自動車にも水素を供給している。 そのためわざわざ瀬戸「北」「南」と名称まで変えて設置しているとはいえ、 この呼称では南北間がかなり離れているように思えるが、実際にバス1台に相当する10mも離れていない。 それだったら統合して1号機・2号機とするか、東京の大井埠頭にある東海道新幹線の車両基地よろしく 「瀬戸第1水素ステーション」「瀬戸第2水素ステーション」とした方がまだいい。
ともあれ、1か所で2種類の供給方式を並行して使用することに意義があることは確かだ。

指定の集合場所で待機していると、ピンクのカウボーイハットをかぶった女性スタッフ2名が登場、 彼女らの説明を受けながら瀬戸北水素ステーションから見学ツアーは始まった。
しかし企業秘密の箇所があるのか、劇場じゃないんだからこの見学で撮影・録音不可は痛い・・・ 思い出しながら書くのに時間がかかってしまうし、 何よりこのページをご覧になっている諸兄には実感が湧かないだろう。

セキュリティエリアを抜けて見学ツアーで最初に紹介されるのは、2つの水素ステーションのうち 瀬戸北に供給する水素ガスを積んだトレーラー。 駐車スペースは2台分あるが、1台は常駐して水素ステーションに配管をつなげて 水素ガスを取り降ろし、もう1台が名古屋近郊の東海市にある 新日本製鐵名古屋製鉄所へ行って 水素ガスを充填して戻ってくるようだ。
(余談だが名古屋から中部国際空港へ行く名鉄常滑線に「新日鉄前」駅がある)


愛・地球博水素ステーション瀬戸北
タンクローリーというので、素人目には液体や液化ガスを輸送する通常の大きな円筒形のタンクを想像したが、 実車は六角形のコンテナの中に小型のボンベ(カードル)がまとめて収容され、更に青いシートをかぶせてあった。 トレーラーシャーシは東急車輌製だったが、 カードルは別のメーカーで造っていたようだ。(メーカー失念)
水素タンクは高圧ガス保安法で赤く塗ることが義務づけられているが、青いビニールシートで覆うくらいなら 「水素=危険=赤」の連鎖をどこかで断ち切り、「水素=水=青」のイメージでタンクの配色を 考え直してもよさそうな時期に来ているかもしれない。


瀬戸北の水素ステーションに併設されている
トレーラー駐車場

新日鐵名古屋製鉄所で充填した水素を積んで
閉場後の瀬戸会場に向かうトレーラー
ところで製鉄業界と水素ガスは素人目には無関係に思えるが、石炭から燃料のコークスを 製造する際に発生する石炭乾留ガス(コークス炉ガス:COG)には水素とメタンが多く含まれていて、 石炭1トンにつき300ノルマル立方メートル(摂氏0度かつ1気圧=0.1メガパスカルにおける体積)の 水素ガスが含まれているという。
COGは以前は製鉄所内で主に燃料として自己処理していたが、これを外部でも有効活用することから、 水素の供給源として石油・ガス業界だけでなく、石炭を大量に使う製鉄業界にも目が向けられることになった。
この考えを発展させれば、製鉄所のある工業地域では水素を燃料とした燃料電池のインフラが 構築しやすいことになるが、大抵は近隣にもう一つの水素供給源:石油コンビナートがある地域が多い。

新日鐵名古屋製鉄所(遠望)
話を愛・地球博に戻す。 「瀬戸北」では外部から水素ガスを前出のトレーラーで搬入して所内のタンクに貯蔵・供給する 「オフサイト」方式をとっている。
S−L111が使っていたJHFC有明水素ステーション(東京・江東区)もオフサイト方式で、 水素ガスの供給源は同じ新日鐵だが、 有明は君津製鉄所から 液化水素(S−L111には気化して供給)、瀬戸北は名古屋製鉄所から圧縮水素ガスと方式が異なる。
この時点でトレーラーに充填されている水素ガスは約20メガパスカル(19.6メガパスカル)に 圧縮されているが、水素ステーションでは更に倍の40メガパスカルまでコンプレッサーで圧縮して貯蔵する。 水素タンクは300リットル×12基と 自動車用の圧縮水素ガスは25〜35メガパスカルが今のところ主流なので、この圧力の差を利用して 燃料電池自動車に供給・充填するのだ。


愛・地球博水素ステーション瀬戸南
続いてコンクリートの壁を隔てて隣接する「瀬戸南」に移る。 こちらは東邦ガスから供給される都市ガスを改質して 水素を抽出、瀬戸北同様にコンプレッサーで40メガパスカルに圧縮して貯蔵、供給する。
水素タンクは「瀬戸北」の300リットル×12基に対し20基を設置、 水素ガス製造能力が従来の毎時2.7〜4.5kg(30〜50立方メートル)に対し南北共に倍の 毎時9.0kg(100立方メートル)にアップしたことで 一日あたりの最大供給容量は1100立方メートルとこれまでの倍以上の容量を確保した。
なお瀬戸南のガス改質系統が故障や整備で使えなくなった際のバックアップとして、瀬戸北のトレーラーからも 配管を引き通して水素ガスを供給できるように設計されており、冗長系と信頼性の確保に努めている。

一連の設備を見学して瀬戸会場の入口に戻ると、質疑応答の上、見学ツアーは終了した。

ただ残念なことに5月13日に瀬戸南で充填機のホースから水素ガス漏れが発生し、 修理で1週間ほど休止していたが、瀬戸北のトレーラーの運行頻度を上げてフル稼働させることにより運休を免れた。
これは重いノズルに対しステンレス鋼製ホースが負けて亀裂が入り、そこから水素ガスが漏れたことによるもので、 対策としてホースの曲げを制限するよう保護管を装着したという。
参照:朝日新聞マイタウン愛知 平成17年5月13日号
   中日新聞 平成17年5月20日号

・総括:今度こそ第二の舞台を〜&ケロケ郎の存在意義は?
都バスS−L111号車でFCHV−BUSの静寂性は十分納得しているが、乗客が少なかった1回目の 長久手→瀬戸はともかく、他の時間帯は乗客が多くて嬌声で思ったより静寂性を体感できなかったのが 残念なところ。
そこに流れてくるケロケ郎のDVDが「?」に思えてならない。 車内外をケロケ郎をモチーフとしたデザインにしてコーディネートすればある程度納得できるが、 これでは存在感がなく、車内のDVDに見入っていた方がどのくらいいるのか気になる。 最後部に座って走行音を録音したが、自宅で再生したらケロケ郎のナレーションと乗客の嬌声に かき消されてまともに聴けない状態だった。

何の意味があったのだろう・・・
それなら乗り場のインフォメーションボードで放映していたビデオをそのまま車内でも流すか、 キッコロとモリゾーにご登場いただいて地球環境と燃料電池について”漫才”させたDVDを創るか、 それこそアテンダントを添乗させて燃料電池やFCHV−BUSのレクチャーを行った方がまだいい。
DVDの内容は往路も復路も同じ内容だったので、2話構成にして長久手発と瀬戸発とか 昼と夕方で内容を変えれば並んででも乗る意味が出てくるだろう。
瀬戸発はケロケ郎のままにするとして、長久手発は海上の森に棲むキッコロ&モリゾーに変えて 2人(2匹?)に誘ってもらう設定はいかがだろうか。
なおS−L111では、燃料電池の概念やFCHV−BUSの特徴についてCGで説明したものを 出庫から入庫までエンドレスで流していた。
IMTSについては対象外だったのであまり言及できないが、ボディがCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製の 大胆なデザインにもかかわらず中身をCNGエンジンでごまかすくらいなら、 いっそのことFCHV−BUSとIMTSを組み合わせて技術力をアピールする「大技」を披露して欲しかった。
要求される停止位置の精度が高すぎてトラブルが続発していたようだが、FCHV−BUSならモーターで駆動するため 電車で実用化されている純電気ブレーキ(減速時に摩擦ブレーキを使わず電力回生ブレーキを使う)と ATO(自動列車運転装置)、TASC(定位置停止制御装置)を応用できる可能性があるからだ。

なお万博終了後の9台の行方は、8月末現在公表されていない。
S−L111は残念なことに平成16年末の営業終了後はトヨタの研究所に眠っていて、 目を覚ます機会は今のところないが、愛・地球博バージョンも車検が秋で切れるとはいえ (1台3億円強と仮定して)30億円近い巨費を投じて造ったのだから、 同じようにお蔵入りさせるのはもったいない。 まとまった数故に水素ステーションが沿線にあれば、(運賃箱や案内表示器などの整備を行う程度で) 車検の再取得と運輸局への届け出ですぐにでも営業運転はできるので、 万博終了後は大臣認定を再度受けてでも第二の任務に就かせてあげたいのが切実な願いであり、 バスファンの、そして燃料電池関係者の総意だ。
幸い平成17年7月に愛知県に「あいちFCV普及推進協議会」が設立されたので、 協議会を仲介役として愛知県内に活躍の舞台を与えるのが理想的だろう。

個人的には次のような設定が考えられる:(予想:☆:確定、◎本命、○対抗、△穴)

1.愛知県内で走らせるなら
名古屋市交通局に貸与する
(名古屋近郊の東海市にある東邦ガス総合研究所の水素ステーション開放か名古屋市内に水素ステーション新設が条件)
☆新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の 新エネルギー実証実験の一環として
 瀬戸会場の水素ステーションを常滑市の中部国際空港対岸にある中部臨空都市に移設、
 知多乗合に貸与して常滑周辺の路線バスとして走らせる

(以下3案は瀬戸会場の水素ステーション解体のため廃案)
×瀬戸会場の水素ステーションを豊田市内に移設、トヨタ自動車の社員送迎バスとして活用する
×名古屋東部丘陵界隈の大学スクールバスまたは社員送迎バスとして走らせる
×名鉄バス(名古屋営業所)に貸与して路線バスとして走らせる

2.愛知県外で走らせるなら
○東京、愛知の次は大阪といわんばかりに、大阪市此花区酉島にある 大阪ガスの水素ステーションを活用して 大阪市交通局にリースする
(大阪ガス研究所近隣の酉島営業所に配置)
◎東京都交通局に再度リースして都内でFCHV−BUSの運行を再開させる
(深川営業所はS−L111が使っていた有明水素ステーションを継続利用、
 今度は南千住営業所にも配置して東京ガスの 千住水素ステーションを使用)
※有明水素ステーションの使用を条件に 日の丸自動車興業が東京ベイシャトルへの導入もあり得る?
川崎市交通局または 川崎鶴見臨港バスにリースする
(両社局共に塩浜営業所に配置して小島新田・川崎オキシトンの水素ステーションを供用)
※JFEスチール東日本製鉄所の協力が得られれば、臨港は浜川崎に配置して製鉄所からCOGベースの水素ガスを パイプラインで営業所に供給する「力技」もあり

横浜市交通局にリースする
(鶴見営業所に配置して大黒埠頭・コスモ石油の水素ステーションを供用するか、
 緑営業所に配置してズーラシア付近の新日本石油横浜旭水素ステーションを供用)
△屋久島クリーンエネルギーパートナー構想の一環として屋久島へ持ち込み、 島内の路線バス・スクールバスとして活躍させる
※寒さに弱いネックは南西諸島なら無関係

下馬評では地の利から名鉄バスと名古屋市バス、S−L111の遺志を継いで都バスが有力視されているようだが、 いずれにしてもたった半年余りで廃車というもったいないことをせず、今度こそさらなる実用化と普及に向けて 何らかの活用を期待したい。

※平成17年10月〜11月の東京モーターショーをはじめとして2号車がJHFCプロジェクト試乗車として 低公害車や燃料電池関連のイベントに顔を出していますが、2005年12月17日付の読売新聞(中部版)では、 一部が平成18年春に中部国際空港のランプバスと空港島内の路線バスへの「再就職」が決まり、 水素ステーションも移設して再活用する旨報じられています。
http://chubu.yomiuri.co.jp/news_top/051217_1.htm


万博記念グッズの中からFCHV−BUSのクリアファイルとメモ帳。
他にピンズとミニカー付きポールペン(シャープペンシル?)、タオルがラインアップされていた。


愛・地球博「燃料電池どっぷりツアー」へ(準備中) 車両ディテール FCHV−BUS
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